FRESH THINGS

2018年に登場して以来、ブラームスを代表するシリーズとなったカーディガン ジャケットのセットアップ。そんな人気のモデルで南貴之が別注を行ったのが2021年のこと。そこから4年の月日を経て、くだんの企画にさらなる続編が! 袖の切羽も前ボタンも省かれたラフかつ上品なスタイルに南が今また感じる魅力と、その最新版ができるまでの制作秘話を、ブラームスの村上圭吾さんと振り返ります。

Interview & Text by Rui Konno

 

いいデザインっていうのは残ると思うから。(南)

 

―今回はフレッシュサービスが別注したブラームスのセットアップについてのお話を聞けたらなと。そもそもこのアイテムを南さんが別注するのは今回で2回目なんですよね?

南貴之(以下南):よく知ってるね。俺でも忘れてたりするのに。

村上圭吾(以下村上):(笑)。

―ちゃんと勉強して来ました(笑)。それで、そもそもブラームスとしてあのベースのセットアップを最初につくったのはさらに遡るわけですよね?

村上:そうですね。その3年くらい前です。

―そうやって過去にも別注したアイテムを数年越しでまた違う形で別注をすることになった経緯が率直に気になりました。

南:すごいシンプルな話で、気に入ってる。

村上:(笑)。

南:確か今回は素材から入ったよね? ブラームスの展示会に行ったときに「どれで(別注)やる?」みたいな話になって、「アレがいいな」ってことになって。そのアレっていうのがこのセットアップだったと。

ー村上さんは“アレ”で「あぁ、アレね」となるんですか?


- Wool Gabardine Cardigan Jacket FS / Wool Gabardine Wide Easy Slacks FS

村上:なりましたね。

―それぐらい南さんは思い入れがあったんでしょうけど、その中で今またここで別注をしたいとなったのはなぜなんでしょうか?

南:俺は結構いつもディレクター目線になるんで、村上くんのブランドでこの生地だったらどの形にはめ込んだら可愛いかな? みたいなことをいつも考えてるのよ。まぁ、ディレクターとか格好よく言っちゃってるけど、要はお客さん目線だね。

―「この素材でこの形のシャツ、無いんですか?」みたいなことですよね。

南:そうそう、あれあれ。本人的にやりたいかどうかは1回抜きにして、別注だから出来るわがまま的なことってあるじゃない? ああいうのをたまに繰り出すっていう。俺がお客さんだったらっていう体だから、結局俺ですよね。

―村上さんとしてはこういう過去につくったアイテムで別注のリクエストをされたときってどんな気持ちなんでしょうか?

村上:もう率直にありがたいです。これだけ前のものを覚えていてもらえるっていうのは、なかなかないことだと思います。

―毎シーズン新しいコレクションをつくってるデザイナーさんとしては過去のものは一度片付いたものみたいな感覚があるのかな、とも思ったんですけど。

村上:それは正直ありますけど、南さんが言ってくるようなものはさすがに覚えてます。このカーディガンジャケットっていうアイテム自体はずっと続けてるんですが、アップデートはしてつくり続けているので「そのシーズンの仕様をベースに」ということが多くて、「4年前のあの形で!」っていうのはあんまり言われないですね。たぶん、南さんだけじゃないですかね(笑)。

南:あ、そうなの?(笑)

村上:はい。でも、それが今の気分だっていうのもなんとなくわかります。

南:そうだよね。

村上:今回の別注の話を最初にした日の夜かなんかにふたりで一緒にワイン屋さんに行ったんですけど、そのときに偶然、あのセットアップを着てる人に会ったんですよね。

南:あったね。俺の知り合いなんだけど、「あ! 着てる!」ってなったもん。昔やらせてもらった別注のやつだ、って。

―すごい。仕込みを疑っちゃうようなエピソードですね。

南:「お前、ちょっとあれ着てあの店来いよ」みたいな? 仕込んでないよ(笑)。

村上:(笑)。たまたまいらっしゃいましたね。

―とは言え5年の周期って、ファッションだとどれだけ面白かったものでも、見え方が変わったりするには充分すぎる期間だと思うんですけど、このセットアップのタイムレスたる部分があるとしたら、どんなところなんでしょうか?

南:俺もテーラードジャケットっていう男性服において基本的なものをどう変化させていくかっていうことはいつも考えてるタイプの人間なんですよ。それでいつもなんとなく、カーディガンみたいに軽く羽織れるようなジャケットがあったらな…とは思ってて。見た目の話で言えばガチガチにフル毛芯でつくるきっちりしたジャケットの良さみたいなものもわかるけど、できれば僕はそうじゃないほうが良くて。単純に疲れちゃうし。だけど、やっぱりいい大人なんで、カジュアルでも見た目としてある程度きちんと、きれいに見えるものが欲しいなあっていう気持ちもあって。僕にとってはブラームスってブランドのこのセットアップがそれなんだよね。だからずっと覚えてるっていうか。

―それぐらい印象的に留まっててないと、そうそうアーカイブとして引き出せないですもんね。

南:うん。あとはやっぱり、毎回全然違う格好してる男が基本的に好きじゃないから。会うたび「え?誰!?」ってくらい変わる人いるじゃん? ああいうのとか、すごい嫌い。

村上:書けないでしょ(笑)。

南:いや、いつもうまいことまとめてくれるからさ。

―書きます。ギリギリのとこまで。

村上:(笑)。

南:やっぱり一貫性がある人のほうが好きだし、それにいいデザインっていうのは残ると思うから。そういうもんなんじゃないかなって。それが昔のものだったとしても。もちろん「ここがもうちょっとこうだったらな…」とかって声を聞いたりして、自分でも改めて着てみて確かになと思えれば、それを踏まえてオファーすることもあるけどね。このセットアップに関してはそれがないから、そのままの形でやってるだけ。

 

単純に「いいかも」と思えるかが大きいかも。(村上)

 

―これパターンとかって昔のままなんですか?

村上:いえ。すごく変えてます。

南:やっぱりそうなんだね。生地が変わるから絶対にパターンも変えるんだろうなとは思ってたけど。

村上:南さんに言ってないところも結構変えてます。

―そこはフレッシュサービスからの別注に対する村上さんのアンサーですよね。

南:やっぱりコラボレーションだから、そこは俺も最大限相手のことを尊重したいし、ああしろ、こうしろとはいちいち言わないようにしてる。

ーパターンに手を加えたのは単純に見えがかりについての気分の変化によるものなのか、生地の個性を踏まえてのものなのかで言うと、どっちが理由なんでしょうか?

村上:両方ですね。

―具体的にどのあたりのバランスが変わってるんですか?

村上:まず、ゴージラインを下げてます。あとは肩幅も元々のモデルがかなり大きいので、雰囲気を変えすぎずに少しだけ狭めてます。パンツのサイズ感も変えていて、前のやつは深いタックを入れていて、すごく太かったんですよ。それを今の気分に合わせて、太いけど太すぎない、ちょうどいい太さにしました。

ー印象はあまり変わってなくても微調整はかなりされてるんですね。特にジャケットでゴージ位置が変わるっていうのはかなり表情に影響しそうですけど。

村上:そうですね。前のは割と上のほうだったんですよ。でも、今の感覚だと上すぎるとちょっと違和感があったので少し下げました。ただ、「雰囲気が完全に違うね」っていうところまでは持っていかないように気をつけて。言い方悪いんですけど、気がつかないかもというくらいギリギリのところで。

南:俺はそれ、気づいてたよ。あ、低いなって思った。だけど、ゴージが低いのは好きだし、よりカーディガンっぽくなっていいなって。

―確かに。

村上:そうやって「1回出してみよう」って見てもらったら気に入っていただいたので、このまま行こうと。

南:こういう別注とかコラボレーションはつくってる人がどうしたいかっていうのが一番重要視すべきことなんだよね。自分が受ける場合もそうだけど、ああしろ、こうしろって細かく言ってきたら「うちはOEMじゃないから」って言って断っちゃう。「そういうことがやりたいんだったら自分でつくれば?」って。

―村上さんがそれ聞いて、「そうですよね」って言えなくないですか?

南:いやいや絶対嫌なタイプだよ。たぶん、俺よりそういうのが嫌だと思う。

村上:(笑)。

―でも、実際にブラームスにそういうオファーは少なくないんだろうなと思うんですけど、受ける・受けないの線引きってどういうふうにされてるんですか?

村上:単純にお声がけいただいたときに「いいかも」と思えるかどうかの直感的なところが大きいかもしれないです。想像ができるというか。

南:わかる。「確かに、それでこれをやったらいいかもね」とかってね。

村上:ですね。「この生地でつくりたいんだ」って言われたときに、「確かに欲しいな」っていう気持ちが出るか出ないか。それをやっておもしろそうだと共感できるかで決めてます。

南:酒飲んだときにどこのオファーが嫌だったか聞いてみたいね。

村上:(笑)。

―でも大事なことですよね。そこを見失なっちゃうと、目の前の服にかける想いみたいなものもよく分からなくなっちゃいそうですし。

南:それにブラームスでやる必要性があるのかどうかっていうところも結構大事だよね。ロゴをバーン! とか、そういうブランドじゃないから。それで、今回は素材が入り口になったわけ。ブラームスの展示会に行ったらいつも生地が面白いから見てるんだけど、この生地でこういうことやったら面白いんじゃない? みたいな想像から入って。

―それで言うと今回の生地はウールギャバって聞いてたので、綾の出たパリッとした質感かなと思っていたんですけど、実物は柔らかい生地感だったのがちょっと意外でした。

村上:ウールギャバは毎シーズンやってて、少しづつ変えたりしながら継続しています。このシーズンは普通とは逆の左綾にして柔らかくしていて、その生地に洗いをかけてます。生機風というか。

南:要は整理してない感じってことだよね。

村上:そうです。ただ、本当に整理しないといろいろ悪さが出てくるので、整理してない見た目の状態のものを整理してつくるというか。それで毛羽立った感じを出して、ウールだと基本硬いけど、ちょっと柔らかさが欲しいなと思って左綾にしました。リーとかのデニムってちょっと柔らかいじゃないですか? 構造上はあれと一緒で、左綾になると生地って柔らかくなるので。それで、綾目が目立たないけど立ってるようにしたくてボコボコした感じにちょっと持っていきたいなと。

 

やっぱり好きに着てもらいたいなって。(村上)

 

―あんまりウールで左綾って聞いたことがないんですけど、この生地は流通しているものではないんですか?

村上:もちろん自分たちでイチからつくってます。やる人はやりますけど、ギャバでやる人は少ないと思います。

南:そうだよね。ここのポケットの切り替えって何か意味があるの?

村上:それは補強です。三角に入れるカン留めの延長じゃないですけど、そんな役割です。

南:なるほどね。わざとフラップもなくしてるもんね。

村上:なくしてます。内ポケはありますけど。

南:袖と前はボタンすらないっていう。よくここまで(要素を)抜けたね。俺はどうしても「こことそこだけは…」とかってなっちゃう。抜く勇気がないというか。

―レス イズ モアを是とする南さんでもですか?

南:うん。やっぱり頭がカタいんだろうね。どうしてもジャケットらしい見栄えを気にしちゃうというか。

―オーセンティックへの執着やら、そことの決別みたいなことなんですかね?

南:なのかな。俺ができないから、こうやって抜けるってすごいなって思う。

―でもヴィンテージだったり史実やアーカイブに意識的な人ほど、今の南さんみたいにオーセンティックに引っ張られたりしそうなものですよね。古着に精通した村上さんがそこと適正に距離を置けるっていうのが余計にすごいなぁと。

南:そうだよね。俺よりもっと抜けなそうな人だと思ってたのに、バサッと抜いてるからすごいなって(笑)。

村上:僕も当初はやっぱり抜ききれなくて色々やりましたよ。2018年ぐらいに最初につくったときはファーストサンプルから前ボタンの数を1個減らして。

南:徐々抜きだ? 経てるんだね、そういう段階を。

村上:はい。で、最終で「もうボタンいらなくない?」みたいになったんですよ。自分がジャケットを着るとき、割とボタンを閉めないので。そのシルエットが好きなんです。ボタンを閉めるとラペルの落ち感が変わるじゃないですか。テーラーならボタンを閉めたときに美しく持っていくと思うんですけど、自分は古着とかでいろんなジャケットを今まで着てきて、開けたときのほうが格好いいなってことが結構ありました。それで返り止まりとかを曖昧にしてつくったり。実はこれってダブルなんですよね。完全ではないけど、合わせを深めに採っていて。

南:なるほどね。

村上:そういうことを試して、カーディガンみたいに羽織れるようにして。あとは毛芯だったり肩パッドが入ったりすると格好はいいけど、やっぱりちょっと動きづらかったので肩のところはカバーオールみたいに肩傾斜をつけて落として、若干カジュアルに持ってったりとか。そういうバランスは当時苦労したところです。懐かしいですね。

南:最初は村上くんも抜ききれなかったんだね。

村上:軽く羽織れるジャケットをつくりたかったので、袖口の切羽とかは最初から絶対なくそうと思ってたんですけど、ボタンってやっぱり欲しがる人が多いのでそれだけ最初はつけてたんです。だけど、いろいろやってみて「やっぱりなくそう」となったのがこのジャケットの誕生のきっかけというか。オーセンティックではないから、世に出すときにどう見られるかなという気持ちは正直ありました。

南:俺、ブリティッシュのワークウエアとか、ああいうところから元ネタを引っ張ってんのかなぐらいに思ってたよ。それをドレスに上げようとしてんのかなって。けど、今の話聞いたら全然違ったね。

ーカジュアルのドレスアップか、ドレスのカジュアルダウンかってことですよね。

南:うん。肩とかもわざと何も入れてないし、そういうワークジャケットみたいなイメージにテーラードを組み合わせてカーディガンっぽくしようとしたのかなって勝手に解釈してた。

村上:でも、それは両方ありますよ。ワークウエアとかミリタリーとかの肩ってなだらかなんですけど、そうすると袖が太くなるからその辺のバランスはすごく考えました。

―村上さんはデザインをするときに特定の人物をイメージしたりされるっていう話を以前にされてましたけど、このセットアップについてもそういうリファレンスはあったんですか?

村上:これはもう、小汚いおじいちゃんというか。落ちぶれた貴族みたいな。

―え!?

南:(笑)。

村上:紳士服っていい生地でかっちり作ると格好いいんですよ。ブリティッシュ系とかアメリカントラッドでもそうですけど。でも、それが古着になって毛羽立ってて、サイジングもちょっと今っぽくなかったりするものってあるじゃないですか? ああいうイメージというか。

南:なるほど。

村上:おじいちゃんてやっぱり体の線が細かったりするんですけど、そういう人がワイドなものを着て崩しつつも上品な雰囲気が残ってるみたいな感じ。

―この黒のやわらかいギャバ素材でゆとりのあるシルエットは’90sのDCブランドっぽくもあるのかなと思いました。

南:俺は基本、そういうのが好きだからね。出発点が結局そこだから。

村上:でもこの生地、実は完全な黒じゃなくて、先染めの黒とネイビーの糸でつくってるんですよ。ちょっとだけネイビーが入ってる。だから、ちょっと青みがかった黒っぽくなってます。

南:だから生地に立体感があるんだね。

村上:はい。反染めよりも先染めのほうが立体感は出ますよね。

―セットアップで着たら生地の存在感がもっと増しそうですね。

村上:やっぱりセットアップは楽ですよね。僕自身はキマりすぎてる感じがして、あんまり着ないですけど。

南:俺は上下揃ってるほうが楽なタイプだけど、上下別売りだとパンツだけ残るとかってよくあることじゃない? でも、俺が目指してるセットアップって両方バラバラも着られるもので、パンツだけ単体で穿いても、ジャケットだけ羽織っても成立するもの。つくるものは自分寄りだけど、その自由度は買ってくれる人に委ねたいっていうか。

村上:そこは僕も同じですね。やっぱり好きに着てもらいたいなっていうのが第一です。そこは古着と一緒で、古着は誰がどう着るかなんてわからないじゃないですか? だから別に自分のブランドでも、自分のブランドと合わせて欲しいって気持ちもないですし。好きに楽しんで着てもらったほうが嬉しいですね。こう着てもらえたら、っていうのはルックで表現してますけど、絶対こうじゃないとダメだっていうのはないです。

南:俺もそれはないな。それよりも「この人、毎回同じ服だけどなんかキマってるな…」みたいなのが理想の男性像として自分の中にあるから、自分がつくった服が似合ってる人を見るとやっぱり嬉しいしね。

―視点はそれぞれ違っても、そういう共通言語があるから一緒にものづくりをしても上手くいくんでしょうね。

南:それはたぶん、村上くんが僕に寄せてくれてるんですよ。

村上:(笑)。

 



発売日
2025年9月27日(土) 12:00~
※店頭・WEB STORE同時発売

Wool Gabardine Cardigan Jacket FS
Price : ¥81,400 (tax in)
Color : BLACKxNAVY
Size : 2 / 3

Wool Gabardine Wide Easy Slacks FS
Price : ¥51,700 (tax in)
Color : BLACKxNAVY
Size : 2 / 3



村上圭吾

blurhms / blurhmsROOTSTOCK デザイナー
工場、生地、販売、生産など、ひと通りのアパレルの業務を経験した後、2012年に「blurhms(ブラームス)」設立。 2017年にはよりオーセンティックなアイテムを展開するライン、blurhmsROOTSTOCK(ブラームス ルーツストック)を立ち上げ、今年の3月からは、東京・用賀でセレクトショップEND ON END.(エンドオンエンド)を展開している。

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